原発事故と平井憲夫さんの遺言 (8)原発は核の平和利用ではない

●言えば差別になる、言わなければ分からない

 日本の原発は「今までは放射能をいっさい出していません」と何十年もウソをついてきた。
でもそういうウソがつけなくなったんです。
 原発にある高い排気筒や排水口からは、放射能が出ています<注:放射性のクリプトン・キセノン・アルゴン・ヨウ素・コバルト・トリチウム・セシウム・ストロンチウムなど>。
出ているんではなくて、出しているんですが、24時間放射能を出していますから、その周辺に住んでいる人たちは、一日中、放射能を浴びて被ばくしているんです。
ある女性から手紙が来ました。23歳の方です。
便箋に涙の跡がにじんでいました。
 「東京で就職して恋愛し、結婚が決まって、結納も交わしました。
ところが突然相手から婚約を解消されてしまったのです。
相手の人は、君には何にも悪いところはない、自分も一緒になりたいと思っている。
でも、親たちから、あなたが福井県の敦賀で十数年間育っている。
原発の周辺では白血病の子どもが生まれる確率が高いという。白血病の孫の顔はふびんで見たくない。
だから結婚するのはやめてくれといわれた」
 と書いてありました。この娘さんに何の罪がありますか。
こういう話がいろんなところで起きています。
 この話は原発現地の話ではない、東京で起きた話なんですよ、東京で。
皆さんは、原発で働いていた男性と自分の娘とか、この女性のように、原発の近くで育った娘さんと自分の息子の結婚を心から喜べますか。若い人も、そういう人と恋愛するかも知れないですから。
まったく人ごとではないんです。
こういう差別の話は、言えば差別になる。
でも言わなければ分からないことなんです。
 原発に反対している人も、原発は事故や故障が怖いだけではない、こういうことが起きるから、原発はいやなんだと言って欲しいと思います。原発は事故だけではなしに、人の心まで壊しているんですから。

●電気がなくなっても、私は原発はいやだ

 私自身が大変ショックを受けた話ですが、北海道の泊原発の隣の共和町で、教職員組合主催の講演をしていた時の話をします。
どこへ行っても、必ずこの話はしています。
あとの話は全部忘れてくださっても結構ですが、この話だけはぜひ覚えておいてください。
その講演会は夜の集まりでした。父母と教職員が半々くらいで、300人くらいの人が来ていました。
中には中学生や高校生もいました。話がひと通り終わったので、私が質問はありませんかというと、中学2年の女の子が手を挙げて、こういうことを言いました。 
 「今夜この会場に集まっている大人たちは、大ウソつきのええかっこしばっかりだ。
私はその顔を見に来たんだ。どんな顔をして来ているかと。
今の大人たち、特にここにいる大人たちは農薬問題、ゴルフ場問題、原発の問題、何かと言えば子どもたちのためにと言って、運動するふりばかりしている。
私は泊原発のすぐ近くの共和町に住んで、24時間被ばくしている。
原子力発電所の周辺、イギリスのセラフィールドで白血病の子どもが生まれる確率が高いというのは、本を読んで知っている。
私も女の子です。年頃になったら結婚もするでしょう。
私、子ども生んでも大丈夫なんですか?」
 と、泣きながら大人たちに聞いたのです。
でも、誰も答えてあげられない。
女の子はさらに続けました。
 「原発がそんなに大変なものなら、今頃でなくて、なぜ最初に造るときに一生懸命反対してくれなかったのか。
まして、ここに来ている大人たちは、2号機も造らせたじゃないか。
たとえ電気がなくなってもいいから、私は原発はいやだ」
 「なんで、今になってこういう集会しているのか分からない。
私が大人で子どもがいたら、命懸けで体を張ってでも原発を止めている。
2基目が出来て、今までの倍、私は放射能を浴びている。
でも私は北海道から逃げない」
 ちょうど、泊原発の2号機が試運転に入った時だったんです。
 私が「そういう悩みをお母さんや先生に話したことがあるの」と聞いたら、 女の子は「この会場には先生やお母さんも来ているけど、話したことはない。
でも、女の子同士ではいつもその話をしている。
結婚もできない、子どもも産めないって」というのです。
 担任の先生たちも、今の生徒たちがそういう悩みを抱えていることを少しも知らなかったそうです。
これは決して、原子力防災の8kmとか10kmの問題ではない、50km、100km圏でそういうことがいっぱい起きているんです。
今の中学生、高校生がそういう悩みを持っていることを絶えず知っていてほしいんです。

●原子力防災は可能か

 原子力防災の方は、どうでしょうか。
原発事故が起きた時、重点地域は原発から半径8km、10kmで、それ以上は対象外だと。
馬鹿げた机上だけの防災でお茶を濁して、無理やり国民を納得させようとしてきました。
 紙と鉛筆だけの防災ではなく、原発を運転する限りは、全国民に防災計画を示すべきです。
たとえ一人の人が不安だといっても、運転中の原発を止めて、机上ではなく、現場に立って徹底した見直しをしなければ、今に取り返しのつかないことが起きるんじゃないでしょうか。
 国は「原発が安全だ」とは思っていません。
日本でもチェルノブイリのような事故が起きるのももう近いと、政府には分かっているんです。
だから、1991年2月に美浜原発事故が起きると、放射能がどちらに向かっているかを直ぐにキャッチできるヘリコプターを1機買って、羽田飛行場に用意しました。各県と科技庁、総理大臣とをコンピュータでつないであります。
勉強していない誘致派の議員さんたちが「安全だ、安全だ」と言っているだけなんです。
 <注:JCO臨界事故後の2000年6月、「原子力災害対策特別措置法」が制定され、原子力施設の外部に、「緊急事態応急対策拠点施設=オフサイトセンター」が常置された>
 原発事故が起きた時、真っ先に駆けつける自治体職員や消防団員が放射能や放射線についてどれだけの知識を持っていますか。
その自治体職員、消防団員があなたのご主人やお父さんだったらどうしますか。
目に見えない放射能とたたかうことが可能なんでしょうか。
 運転中の原発がある自治体には、事故が起きた時のために、役場や保健所にヨウ素剤を用意して保管しています。
しかし、原発事故が起きた時、だれが保健所や役場に取りに行くんですか。
それをどうやって配るんですか。
 原発事故が起きた時、国民にどうすればいいのかを知らせる義務が、国や電力会社にあるのではないでしょうか。
事故は待ってくれません。
 
●原発がある限り安心できない

 ここまで聞いて下さったみなさんには、原発がどんなものか分かってもらえたと思います。
チェルノブイリで原発の大事故が起きて、原発は怖いなあと思った人も多かったと思います。
でも、「原発が止まったら、電気がなくなって困る」と、特に都会の人は原発から遠いですから、少々怖くても仕方がないと、そう考えている人は多いんじゃないでしょうか。
 でも、それは国や電力会社が
「原発は核の平和利用です」
「日本の原発は絶対に事故を起こしません。安全だから安心しなさい」
「日本には資源がないから、原発は絶対に必要なんですよ」と、大金をかけて宣伝をしている結果なんです。
「もんじゅ」の事故のように、本当のことはずーっと隠しています。
 原発は確かに電気を作っています。
しかし、私が20年間働いて、この目で見たり、この体で経験したことは、原発は、働く人を絶対に被ばくさせなければ動かないものだということです。
それに、原発を造るときから、地域の人たちは賛成だ、反対だと割れて、心をズタズタにされる。
できたらできたで、被ばくさせられ、何の罪もないのに差別されて苦しんでいるんです。
 みなさんは、原発が事故を起こしたら怖いのは知っている。
だったら、事故さえ起こさなければいいのか。
平和利用なのかと。
そうじゃないでしょう。
私のような話、働く人が被ばくして死んでいったり、地域の人が苦しんでいる限り、原発は平和利用なんかではないんです。
それに、安全なことと安心だということは違うんです。
原発がある限り安心できないのですから。
 それから、今は電気を作っているように見えても、何万年も管理しなければならない核のゴミに、膨大な電気や石油などのエネルギーがいるのです。
その量が今作っている以上のものになることは間違いないんですよ。
それに、その核のゴミや閉鎖した原発を管理するのは、私たちの子孫なのです。
 そんな原発が、どうして平和利用だなんて言えますか。
だから、私は何度も言います。
「原発は、絶対に核の平和利用ではありません」
 だから、私はお願いしたい。朝、必ず自分のお子さんやお孫さんの顔をしっかりと見てほしいと。
果たしてこのまま日本だけが原子力発電所をどんどん造って大丈夫なのかどうか、事故だけでなく、地震で壊れる心配もあって、このままでは本当に取り返しのつかないことが起きてしまうと。
これをどうしても知って欲しいんです。
 ですから、私はこれ以上原発を増やしてはいけない、原発の増設は絶対に反対だという信念でやっています。
そして稼働している原発も、着実に止めなければならないと思っています。
 原発がある限り、世界に本当の平和はこないんですから。
 「優しい地球 残そう子どもたちに」

by e-kassei | 2007-07-23 11:59 | 健康を考える