原発事故と平井憲夫さんの遺言 (3)ガンの宣告を受けて

●定期検査工事も素人が

 原発は1年くらい運転すると、必ず止めて検査をすることになっていて、「定検」(定期検査)といっています。
原子炉には70気圧とか、150気圧とかいうものすごい圧力がかけられていて、配管の中には水や水蒸気--水といっても300℃もある熱湯--がすごい勢いで通っていますから、配管の厚さが半分くらいに薄くなってしまう所もあるんです。
そういう配管とかバルブとかを、定検でどうしても取り替えなくてはならないんですが、この作業には必ず被ばくが伴うわけです。
原発は一回動かすと、配管の中は放射線でいっぱいになりますから。
 その中で人間が放射線を浴びながら働いているんです。そういう現場へ行くのには、自分の服を全部脱いで、防護服に着替えて入ります。防護服というと、放射能から体を守る服のように聞こえますが、そうではないんですよ。
放射線の量を計るアラームメーターは防護服の中のチョッキに付けているんですから。
つまり、防護服は放射能を外に持ち出さないための単なる作業着です。
作業している人を放射能から守るものではないんです。
だから、作業が終わって外に出る時には、パンツ一枚になって、被ばくしていないかどうか検査をするんです。
体の表面に放射能がついている、いわゆる外部被ばくですと、シャワーで洗うと大体流せるので、放射能がゼロになるまで徹底的に洗ってから、やっと出られます。
 また、安全靴といって備付けの靴に履き替えます。
この靴もサイズが自分の足にきちっと合うものはありませんから、大事な働く足元がちゃんと定まりません。
それに放射能を吸わないように全面マスクを付けたりします。
そういうかっこうで現場に入り、放射能の心配をしながら働くわけですから、実際、原発の中ではいい仕事は絶対に出来ません。
普通の職場とはまったく違うんです。
 そういう仕事をする人が95%以上まるっきりの素人です。
お百姓や漁師の人が自分の仕事が暇な冬場などにやります。
言葉は悪いのですが、いわゆる出稼ぎの人です。そういう経験のない人が、怖さを全く知らないで作業をするわけです。
 例えば、ボルトをネジで締める作業をするとき、「対角線に締めなさい、締めないと漏れるよ」と教えますが、作業する現場は放射線管理区域ですから、放射能がいっぱいあって最悪な所です。
作業現場に入る時はアラームメーターをつけて入りますが、現場は場所によって放射線の量が違いますから、作業の出来る時間が違います。分刻みです。
 現場に入る前にその日の作業と時間、時間というのは、その日に浴びてよい放射能の量で時間が決まるわけですが、その現場が20分間作業ができる所だとすると20分経つとアラームメーターが鳴るようにしてある。
だから、「アラームメーターが鳴ったら現場から出なさいよ」と指示します。
でも現場には時計がありません。時計を持って入ると、時計が放射能で汚染されますから腹時計です。
そうやって、現場に行きます。
 そこでは、ボルトをネジで締めながら、もう10分は過ぎたかな、15分はたったかなと、頭はそっちの方にばかりで。
アラームメーターが鳴るのが怖いですから。
アラームメーターというのはビーッととんでもない音がするので、初めての人はその音が鳴ると顔から血の気が引くくらい怖いものです。
これは経験した者でないと分かりません。
ビーッと鳴ると、レントゲンなら何十枚もいっぺんに写したくらいの放射線の量に当たります。ですから、ネジを対角線に締めなさいと言っても、言われた通りには出来なくて、ただ締めればいいと、どうしてもいい加減になってしまうのです。
すると、どうなりますか。

●海へ放射能をたれ流す

 冬に定検工事をすることが多いのですが、定検が終わると、海に放射能を含んだ水が何十tも流れてしまうんです。
はっきりいって、今、日本列島で取れる魚で、安心して食べられる魚はほとんどありません。
日本の海が放射能で汚染されてしまっているんです。
 海に放射能で汚れた水をたれ流すのは、定検の時だけではありません。
原発はすごい熱を出すので、日本では海水で冷やして、その水を海に捨てています。
これが放射能を含んだ温排水で、1秒間に何十tにもなります。
 原発の事故があっても、県などがあわてて安全宣言を出しますし、電力会社はそれ以上に隠そうとします。
それに、国民もほとんど無関心ですから、日本の海は汚れっぱなしです。 
 防護服には放射能がいっぱいついていますが、それを最初は水洗いして、汚れた水は全部海に流しています。
排水口で放射線の量を計ると、すごい量です。こういう所で魚の養殖をしています。
安全な食べ物を求めている人たちは、こういうことも知って、原発にもっと関心をもって欲しいもんです。
このままでは、放射能に汚染されていないものを選べなくなると思いますよ。
 数年前の石川県の志賀原発の差止め裁判の報告会で、80歳近い行商をしているおばあさんが、こんな話をしました。
 「私はいままで原発のことを知らなかった。
今日、昆布とわかめをお得意さんに持っていったら、そこの若奥さんに『悪いけどもう買えないよ、 今日で終わりね、志賀原発が運転に入ったから』って言われた。
原発のことは何も分からないけど、初めて実感として原発のことが分かった」
 おばあさんは「どうしたらいいのか」って途方にくれていました。
みなさんの知らないところで、 日本の海が放射能で汚染され続けています。

●内部被ばくが一番怖い

 原発の建屋の中は、すべての物が放射能に変わってきます。
物がすべて放射線を出すようになるのです。
どんなに厚い鉄でも放射線が突き抜けるからです。
体の外から浴びる外部被ばくも怖いですが、一番怖いのは内部被ばくです。
 ホコリ、どこにでもあるチリとかホコリ。
原発の中ではこのホコリが放射線を浴びて放射能となって飛んでいますが、このホコリが口や鼻から入ると、それが内部被ばくになります。
原発の作業では片付けや掃除で一番内部被ばくをしますが、この体の中から放射線を浴びる内部被ばくの方が、外部被ばくよりもずっと危険なのです。体の中から直接放射線を浴びるわけですから。
 体の中に入った放射能は、通常は、3日くらいで汗や小便と一緒に出てしまいますが、3日なら3日、放射能を体の中に置いたままになります。
また、体から出るといっても、人間が勝手に決めた基準ですから、決してゼロにはなりません。
これが非常に怖いのです。
どんなに微量でも、体の中に蓄積されていきますから。
 原発を見学した人なら分かると思いますが、一般の人が見学できるところは、とてもきれいにしてあって、職員も「きれいでしょう」と自慢そうに言っています。それは当たり前なんです。
きれいにしておかないと放射能のホコリが飛んで危険ですから。
 私はその内部被ばくを何回もして、ガンになってしまいました。
ガンの宣告を受けた時、本当に死ぬのが怖くて怖くてどうしようかと考えました。
でも、私の母がいつも言っていたんですが「死ぬより大きいことはないよ」と。
じゃ死ぬ前に何かやろうと。
原発のことで、私が知っていることをすべて明るみに出そうと思ったんです。

by e-kassei | 2007-07-23 12:04 | 健康を考える