原発事故と平井憲夫さんの遺言 (1)作業員から検査官まですべて素人

●私は原発反対運動家ではありません

 私は原発反対運動家ではありません。
20年間、原子力発電所の現場で働いていた者です。
原発については賛成だとか、危険だとか、安全だとかいろんな論争がありますが、私は「原発とはこういうものですよ」と、ほとんどの人が知らない原発の中のお話をします。
そして、最後まで聞いていただくと、原発がみなさんが思っていらっしゃるようなものではなく、毎日被ばく者を生み、大変な差別をつくっているものでもあることがよく分かると思います。
はじめて聞かれる話も多いと思います。
どうか、最後まで聞いて、それから、原発をどうしたらいいか、みなさんで考えられたらいいと思います。
 原発について、設計の話をする人はたくさんいますが、私のように施工、造る話をする人がいないんです。
しかし現場を知らないと、原発の本当のことは分かりません。
 私は石油化学プラントの配管が専門です。
20代の終わりごろに日本に原発を造るというのでスカウトされて、原発の配管工事の会社に行きました。
一作業員だったら、何十年いても分かりませんが、現場監督として長く働きましたから、原発の中のことはほとんど知っています。

●「安全」は机上の話

 1995年1月17日に阪神・淡路大震災がが起きて、国民から「地震で原発が壊れたりしないか」「本当に大丈夫か」という不安の声が高まりました。
しかし、決して大丈夫ではありません。
国や電力会社は「耐震設計を考え、硬い岩盤の上に建設しているから安全だ」と強調していますが、これは机上の話です。
 この地震の次の日、私は神戸に行ってみて、あまりにも原発との共通点の多さに改めて考えさせられました。
まさか新幹線の線路が落下したり、高速道路が横倒しになるとは、それまで国民のだれ一人考えてもみなかったと思います。
 世間一般に、原発や新幹線、高速道路などは官庁検査によって、きびしい検査が行われていると思われています。
しかし、新幹線の橋脚部のコンクリートの中には型枠の木片が入っていたし、高速道路の支柱の鉄骨の溶接は溶け込み不良でした。
一見、溶接がされているように見えていても、溶接そのものがなされていなくて、溶接部が全部はずれてしまっていました。
 なぜ、このような事が起きてしまったんでしょうか。
その根本はあまりにも机上の設計ばかりに重点を置いて、現場の施工、管理を怠ったためです。
それが直接の原因ではなくても、このような事が起きてしまうんです。

●素人が造る原発

 原発でも、原子炉の中に針金が入っていたり、配管の中に道具や工具を入れたまま配管をつないでしまったり、いわゆる人が間違える事故、ヒューマンエラーがあまりにも多すぎます。
それは現場にプロの職人が少なく、いくら設計が立派でも、設計通りには造られていないからです。
机上の設計の議論は、最高の技量を持った職人が施工することが絶対条件です。
しかし、原発を造る人がどんな技量を持った人であるのか、現場がどうなっているのかという議論は一度もされたことがありません。
 原発にしろ、建設現場にしろ、作業者から検査官まですべて素人によって造られているのが現実ですから、原発や新幹線、高速道路がいつ大事故を起こしても、不思議ではないんです。
日本の原発も設計は優秀で、二重、三重に多重防護されていて、どこかで故障が起きるとちゃんと止まるようになっています。
しかし、これは設計の段階までです。
施工、造る段階でおかしくなってしまっているんです。
 仮に、自分の家を建てる時に、立派な1級建築士に設計をしてもらっても、大工や左官屋の腕が悪かったら、雨漏りはする、建具が合わなくなったりしますが、残念ながら、これが日本の原発なんです。
 ひとむかし前までは、現場作業には、棒心(ぼうしん)と呼ばれる職人、現場の若い監督以上の経験を積んだ職人が班長として必ずいました。
職人は自分の仕事にプライドを持っていて、事故や手抜きは恥だと考えていましたし、事故の恐ろしさもよく知っていました。
それが10年くらい前から、現場に職人がいなくなりました。
全くの素人を経験不問という形で募集しています。
素人の人は事故の怖さを知らない、何が不正工事やら手抜きかも、全く知らないで作業しています。
それが今の原発の実情です。
例えば、東京電力の福島原発では、針金を原子炉の中に落としたまま運転していて、一歩間違えば、世界中を巻き込むような大事故になっていたところでした。
本人は針金を落としたことは知っていたのに、それがどれだけの大事故につながるかの認識は全然なかったんです。
そういう意味では老朽化した原発も危ないんですが、新しい原発も素人が造るという意味で危ないのは同じです。
 現場に職人が少なくなってから、素人でも造れるように、工事がマニュアル化されるようになりました。
マニュアル化というのは図面を見て作るのではなく、工場である程度組み立てた物を持ってきて、現場で1番と1番、2番と2番というように、ただ積木を積み重ねるようにして合わせていくんです。
そうすると、今、自分が何をしているのか、どれほど重要なことをしているのか、全く分からないままに造っていくことになるんです。
こういうことも、事故や故障がひんぱんに起こるようになった原因のひとつです。
 また、原発には放射能の被ばくの問題があって後継者を育てることが出来ないんです。
原発の作業現場は暗くて暑いし、防護マスクも付けていて、互いに話をすることも出来ないような所ですから、身振り手振りなんです。
これではちゃんとした技術を教えることができません。
それに、いわゆる腕のいい人ほど、年間の許容線量を先に使ってしまって、中に入れなくなります。
だから、よけいに素人でもいいやということになってしまうんです。
 また、例えば、溶接の職人ですと、目がやられます。
30歳すぎたらもうだめで、細かい仕事が出来なくなります。
そうすると、細かい仕事が多い石油プラントなどでは使いものになりませんから、だったら、まあ、日当が安くても、原発の方にでも行こうかなあということになるんです。
 皆さんは何か勘違いしていて、原発というのはとても技術的に高度なものだと思い込んでいるかも知れないけど、そんな高級なものではないんです。 
ですから、素人が造る原発ということで、原発はこれから先、本当にどうしようもなくなってきます。

●名ばかりの検査・検査官

 原発を造る職人がいなくなっても、検査をきっちりやればいいという人がいます。
しかし、その検査体制が問題なんです。
出来上がったものを見るのが日本の検査ですから、それではダメなんです。検査は施工の過程を見ることが重要なんです。
 検査官が溶接なら溶接を、「そうじゃない。よく見ていなさい。このようにするんだ」と、自分でやって見せる技量がないと本当の検査にはなりません。
そういう技量の無い検査官にまともな検査が出来るわけがないんです。
メーカーや施主の説明を聞き、書類さえ整っていれば合格とする、これが今の官庁検査の実態です。
 原発の事故があまりにもひんぱんに起き出したころに、運転管理専門官を各原発に置くことが閣議で決まりました。
原発の新設や定検(定期検査)のあとの運転の許可を出す役人です。
私もその役人が素人だとは知っていましたが、ここまでひどいとは知らなかったです。
 というのは、水戸で講演をしていた時、会場から「実は恥ずかしいんですが、まるっきり素人です」と、科技庁(科学技術庁)の者だとはっきり名乗って発言した人がいました。
その人は「自分たちの職場の職員は、被ばくするから絶対に現場に出さなかった。
折から行政改革で農水省の役人が余っているというので、昨日まで養蚕の指導をしていた人やハマチ養殖の指導をしていた人を、次の日には専門検査官として赴任させた。
そういう何にも知らない人が原発の専門検査官として運転許可を出した。
美浜原発にいた専門官は3か月前までは、お米の検査をしていた人だった」と、その人たちの実名を挙げて話してくれました。
 このように、まったくの素人が出す原発の運転許可を信用できますか。
東京電力の福島原発で、緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動した大事故が起きたとき、読売新聞が「現地専門官カヤの外」と報道していましたが、その人は、自分の担当している原発で大事故が起きたことを、次の日の新聞で知ったんです。
なぜ、専門官が何も知らなかったのか。
それは、電力会社の人は、専門官がまったくの素人であることを知っていますから、火事場のような騒ぎの中で、子どもに教えるように、いちいち説明する時間がなかったので、その人を現場にも入れないで放って置いたんです。
だから何も知らなかったんです。
 そんないい加減な人の下に原子力検査協会の人がいます。
この人がどんな人かというと、この協会は通産省を定年退職した人の天下り先ですから、全然畑違いの人です。
この人が原発の工事のあらゆる検査の権限を持っていて、この人のOKが出ないと仕事が進まないんですが、検査のことは何も知りません。
ですから、検査といってもただ見に行くだけです。
けれども大変な権限を持っています。
この協会の下に電力会社があり、その下に原子炉メーカーの日立・東芝・三菱の3社があります。
私は日立にいましたが、このメーカーの下に工事会社があるんです。
つまり、メーカーから上も素人、その下の工事会社もほとんど素人ということになります。
だから、原発の事故のことも電力会社ではなく、メーカーでないと、詳しいことは分からないんです。
 私は現役のころも辞めてからも、ずっと言っていますが、天下りや特殊法人ではなく本当の第三者的な機関、通産省は原発を推進しているところですから、そういう所と全く関係のない機関を作って、その機関が検査をする。
そして、検査官は配管のことなど経験を積んだ人、現場のたたき上げの職人が検査と指導を行えば、溶接の不具合や手抜き工事も見抜けるからと、一生懸命に言ってきましたが、いまだに何も変わっていません。
このように、日本の原発行政は、あまりにも無責任でお粗末なものなんです。

by e-kassei | 2007-07-23 12:07 | 健康を考える