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原発事故と平井憲夫さんの遺言  (4)私はいったい何人殺したのか

●普通の職場環境とは全く違う

 放射能というのは蓄積します。
いくら微量でも10年なら10年分が蓄積します。
これが怖いんです。
日本の放射線管理というのは、年間50mmSV(ミリシーベルトを守ればいい、それを超えなければいいという姿勢です(注:01年4月から「5年間の平均が20mmSV、1年50mmSVを超えてはならない」に変更)。
 例えば、定検工事ですと3カ月くらいかかりますから、それで割ると1日分が出ます。
でも、放射線量が高いところですと、1日に5分から7分間しか作業が出来ないところもあります。
しかし、それでは全く仕事になりませんから、3日分とか、1週間分をいっぺんに浴びせながら作業をさせるんです。
これは、絶対にやってはいけない方法ですが、そうやって10分間なり20分間なりの作業ができるんです。
そんなことをすると白血病とかガンになると知ってくれていると、まだいいのですが……。電力会社はこういうことはいっさい教えません。
 稼動中の原発で、機械に付いている大きなネジが1本緩んだことがありました。
動いている原発は放射能の量がものすごいですから、その1本のネジを締めるのに働く人30人を用意しました。
一列に並んでヨーイドンで7mくらい先にあるネジまで走って行きます。
着いて、1、2、3と数えるくらいで、もうアラームメーターがビーッと鳴る。
中には走って行って、「ネジを締めるスパナは、どこにあるんだ?」と叫んだだけで、もう終わりの人もいる。
ネジをたった1山、2山、3山締めるだけで160人分、金額で400万円くらいかかりました。
 なぜ、止めて修理しないのかと思われるでしょうが、それは原発を1日止めると、何億円もの損になりますから、電力会社は出来るだけ止めないんです。
放射能というのは非常に危険なものですが、企業というものは、人の命よりもお金なんですよ。      

●「絶対安全」と5時間の洗脳教育

 原発など、放射能のある職場で働く人を放射線従事者といいます。
日本の放射線従事者は今までに約27万人ですが、そのほとんどが原発作業者です。
今も9万人くらいの人が原発で働いています。
その人たちが年1回行われる原発の定検工事などを、毎日、毎日、被ばくしながら支えているんです。
 原発で初めて働く作業者に対し、放射線管理教育を約5時間かけて行います。
この教育の最大の目的は、不安の解消のためです。
原発が危険だとはいっさい教えません。
「国の被ばく線量で管理しているから、絶対大丈夫だ。安心して働きなさい」
「世間で原発反対の人たちが、放射能でガンや白血病に冒されると言っているが、あれは『真っ赤な大ウソ』だ」
「国が決めたことを守っていれば絶対に大丈夫だ」と洗脳します。
 こういう「原発安全」の洗脳を、電力会社は地域の人にも行っています。
有名人を呼んで講演会を開いたり、文化サークルで料理教室をしたり、カラー印刷の立派なチラシを新聞折り込みしたりして。
だから、事故があって、ちょっと不安に思ったとしても、そういう安全宣伝にすぐに洗脳されてしまって、「原発がなくなったら、電気がなくなって困る」と思い込むようになるんです。
 私自身が20年近く、現場の責任者として、働く人にオウムの麻原以上のマインド・コントロール、「洗脳教育」をやって来ました。
何人殺したかわかりません。
みなさんから現場で働く人は不安に思っていないのかとよく聞かれますが、放射能や被ばくが危険だとかはいっさい知らされていませんから、不安だとは大半の人は思っていません。
体の具合が悪くなっても、それが原発のせいだとは全然考えもしないんです。
作業者全員が毎日被ばくをするんですが、それをいかに本人や外部に知られないように処理するか、それが責任者の仕事です。
本人や外部に被ばくの問題が漏れるようでは、現場責任者は失格なんです。
これが原発の現場です。
 私はこのような仕事を長くやっていて、毎日がいたたまれない日も多く、夜は酒の力をかり、酒量が日毎に増していきました。
そうした自分自身に、問いかけることも多くなっていました。
一体なんのために、誰のために、このようなウソの毎日を過ごさねばならないのかと。
気がついたら、20年の原発労働で、私の体も被ばくでぼろぼろになっていました。

●だれが助けるのか

 東京電力の福島原発で現場作業員がグラインダーで額(ひたい)を切って、大怪我をしたことがありました。
血が吹き出ていて、一刻を争う大怪我でしたから、直ぐに救急車を呼んで運び出しました。
ところが、その怪我人は放射能まみれだったんです。
でも、電力会社もあわてていたので、防護服を脱がせたり、体を洗ったりする除洗をしなかった。
救急隊員にも放射能汚染の知識が全くなかったんで、その怪我人は放射能の除洗をしないままに、病院に運ばれてしまったんです。
 だから、その怪我人を触った救急隊員が汚染される、救急車も汚染される、医者も看護婦さんも、その看護婦さんが触った他の患者さんも汚染される、その患者さんが外へ出て、また汚染が広がるというふうに、町中がパニックになるほどの大変な事態になってしまいました。
みんなが大怪我をして出血のひどい人を何とか助けたいと思って必死だっただけで、放射能は全く見えませんから、その人が放射能で汚染されていることなんか、だれも気が付かなかったんですよ。
 1人でもこんなに大変なんです。
それが仮に大事故が起きて大勢の住民が放射能で汚染された時、一体どうなるんでしょうか。
想像できますか。人ごとではないんです。この国の人、みんなの問題です。

原発事故と平井憲夫さんの遺言 (5)起こるべくして起こる事故

●びっくりした美浜原発細管破断事故!

 皆さんが知らないのか、無関心なのか、日本の原発はびっくりするような大事故を度々起こしています。
スリーマイル島とかチェルノブイリに匹敵する大事故です。
 1989年に、東京電力の福島第二原発の3号機で再循環ポンプがバラバラになった大事故も、世界で初めての事故でした。
 そして、1991年2月に、関西電力の美浜原発2号機で細管が破断した事故は、放射能を直接に大気中や海へ大量に放出した大事故でした。
 チェルノブイリの事故の時には、私はあまり驚かなかったんですよ。
原発を造っていて、そういう事故が必ず起こると分かっていましたから。
だから、ああ、たまたまチェルノブイリで起きたと、たまたま日本ではなかったと思ったんです。
しかし、美浜の事故の時はもうびっくりして、足がガクガクふるえて椅子から立ち上がれないほどでした。
 この事故はECCS(緊急炉心冷却装置)を手動で動かして原発を止めたという意味で、重大な事故だったんです。
ECCSというのは、原発の安全を守るための最後の砦に当たります。
これが効かなかったら終りです。
だから、ECCSを動かした美浜の事故というのは、1億数千万人の人を乗せたバスが高速道路を100kmのスピードで走っているのに、ブレーキもきかない、サイドブレーキもきかない、崖にぶつけてやっと止めたというような大事故だったんです。
 原子炉の中の放射能を含んだ水が海へ流れ出て、炉が空焚きになる寸前だったのです。
日本が誇る多重防護の安全弁が次々と効かなくて、あと0・7秒でチェルノブイリになるところだった。
それも、土曜日だったんですが、たまたまベテランの職員が来ていて、自動停止するはずが停止しなくて、その人がとっさの判断で手動で止めて、世界を巻き込むような大事故に至らなかったのです。
日本中の人が、いや世界中の人が本当に運がよかったんですよ。
 この事故は、2cmくらいの細い配管についている触れ止め金具、何千本もある細管が振動で触れ合わないようにしてある金具が設計通りに入っていなかったのが原因でした。
施工ミスです。
そのことが20年近い何回もの定検でも見つからなかった。
定検のいい加減さがばれた事故でもあった。
入らなければ切って捨てる、合わなければ引っ張るという、設計者がまさかと思うようなことが、現場では当たり前に行われている、ということが分かった事故でもあったんです。

●もんじゅの大事故

 1995年12月8日に、福井県敦賀にある動燃(動力炉・核燃料開発事業団。98年10月から「核燃料サイクル開発機構」)の「もんじゅ」でナトリウム漏れの大事故が起きました。
「もんじゅ」の事故はこれが初めてではなく、それまでにも何回も事故を起こしていて、私は建設中に6回も呼ばれて行きました。
というのは、所長とか監督とか職人とか、元の部下だった人たちが「もんじゅ」の担当もしていたので、何か困ったことがあると私を呼ぶんですね。
もう会社を辞めていましたが、原発だけは事故が起きたら取り返しがつきませんから、放っては置けないので行くんです。
 ある時、電話がかかって、「配管がどうしても合わないから来てくれ」という。
行って見ると、特別に作った配管も既製品の配管も、すべて図面どおり、寸法どおりになっている。
でも、合わない。
どうして合わないのか、いろいろ考えましたが、なかなか分からなかった。
一晩考えてようやく分かりました。
「もんじゅ」は、日立、東芝、三菱、富士電機などの寄せ集めのメーカーで造ったもので、それぞれの会社の設計基準が違っていたんですね。
 図面を引くとき、私がいた日立は0・5mm切り捨て、東芝と三菱は0・5mm切上げ、富士電機は0・5mm切下げでした。たった0・5ミリですが、100か所も集まると大変な違いになる。
だから、数字も線も合っているのに合わなかったんですね。
これではダメだということで、みんな作り直させました。
何しろ国の威信がかかっていますから、お金は掛けるんです。
 どうしてそういうことになるかというと、それぞれのノウ・ハウ、企業秘密ということがあって、全体で話し合いをして、この0・5mmについて、切り上げるか切り下げるか、どちらかに統一しようというような話し合いをしていなかったんです。
今回の「もんじゅ」の事故原因だった温度センサーにしても、メーカー同士での話し合いも、されていなかったんではないでしょうか。
 どんなプラントの配管にも、温度計が付いていますが、私はあんなに長いのは見たことがありません。
おそらく施工した時に危ないと分かっていた人がいたはずなんですね。
でも、よその会社のことだからほっとけばいい、自分の会社の責任ではないと。
 動燃自体が電力会社からの出向で出来た寄せ集めですが、メーカーも寄せ集めなんです。
これでは事故は起こるべくして起こる、事故が起きないほうが不思議なんで、起こって当たり前なんです。

●「事象」じゃない「事故」といえ

 しかし、こんな重大事故でも、国は「事故」と言いません。
美浜原発の大事故の時と同じように「事象があった」と言っていました。
私は事故の後、直ぐに福井県議会から呼ばれて行きました。
あそこには15基も原発がありますが、誘致したのは自民党の議員さんなんですね。
だから、私はそういう人にいつも、「事故が起きたらあなた方のせいだよ、反対していた人には責任はないよ」と言ってきました。
その議員さんたちに呼ばれたのです。
「今回は腹を据えて動燃とケンカする、どうしたらいいか教えてほしい」と相談を受けたんです。
 それで、私はまず最初に、「これは事故なんです、事故。事象というような言葉にごまかされちゃあだめだよ」と言いました。
県議会で動燃が「今回の事象は……」と説明を始めたら、「事故だろ!事故!」と議員が叫んでいたのが、テレビで写っていましたが、あれも、黙っていたら、軽い「事象」ということにされていたんです。
地元の人たちだけではなく、私たちも「事象」というような軽い言葉にごまかされちゃいけないんです。
 普通の人にとって、「事故」というのと「事象」というのとでは、とらえ方がまったく違います。
国が、事故を事象などと言い換えるような姑息なことをしているので、日本人には原発の事故の危機感がほとんどないんです。

by e-kassei | 2007-07-23 12:03 | 健康を考える